月崎
じりじりと日差しが照りつける盛夏。窓を開け、扇風機の回るキハ200形に揺られているとその駅は突然姿を表した。月崎駅、無人のその駅は風鈴の音だけが乗客を待っている。
今回の目的地はここ月崎駅から徒歩で30分ほどいったところにある。駅前の道は歩道がないとはいえ車も少しは通っていたが、林道に入ると一気に人気は無くなりクロアゲハやハンミョウ、ガクアジサイといった様々な動植物が待っていた。切り立った崖と沢に挟まれた細い林道には落石注意の看板と破壊された柵が並んでいる。携帯をふと見るとそこには圏外の2文字が並んでいた。道を間違えたのか?ここで怪我をしても誰も助けに来てくれないのでは?という恐怖が頭をよぎる。あと15分進んで何も無かったら戻ろう、そう決めた時それは姿を現した。
月崎トンネル。中ほどの天井が無くなっている素掘りのトンネルだ。中に足を踏み入れると虫の音と足音だけがこだまする。
中央まで進み穴から上を見上げるとそこには別世界が広がっていた。吸い込まれるような蒼と緑。美しさと少しの恐怖にしばらくの間動けなかった。
ふと我にかえるとまた虫の音が聴こえてくる。駅へ向かって駆け出す足取りは軽くなっていた。